薬機法の説明
薬機法とは?
薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といいます。
2014年以前は「薬事法」と呼ばれていました。
薬機法の目的は、大きく分けて下記の3つがあります。
・保健衛生上の危害の発生、拡大の防止
・指定薬物の規制
・保健衛生の向上
これらの目的を実現するために、開発・承認・製造・流通・使用の各プロセスで規制が設けられています。
このうち、広告運用は「流通」のプロセスに該当します。
広告運用に携わるものとして、その手法や表現によって一般の方々に危害を加えたり、安全な生活を脅かすような事態を招かないようにしなければいけません。
薬機法の対象となる商材は?
この薬機法で言及する分野には、以下の4つがあります。
・医薬品
・医薬部外品
・化粧品
・医療機器及び再生医療等製品
これらの分野は、その情報や安全性が正確に伝わらないことによって人体に有害な影響を及ぼすなど、保健衛生上深刻な事態を招く可能性がある分野です。
これらの分野を取り扱う企業をはじめ、広告代理店やライター、インフルエンサーなど関わるすべての人が薬機法について十分に理解する必要があります。
薬機法では何を規制するの?
具体的には、広告運用に関して下記3つの規制があります。
・虚偽または誇大な記事・広告の禁止(第66条)
・特定疾病用医薬品・再生医療等製品の広告の制限(第67条)
・承認前の医薬品・医療機器・再生医療等製品の広告の禁止(第68条)
特に注意しなければいけないのは第66条の「虚偽または誇大な記事・広告の禁止」で、どういった表現や言い回しが「虚偽」や「誇大」に当たるのかを十分に理解しないと、薬機法違反となり処罰の対象となる可能性があります。
また、第68条は「食品(健康食品)」の広告表現に大きく影響します。こちらについては本記事にて後述します。
参考:厚生労働省ガイドライン「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000179263.pdf
薬機法における「健康食品」の取り扱い
薬機法の基本を簡単に説明しました。
ここまでお読みいただいて、薬機法の対象となる分野に「健康食品」がないことに気づいた方もおられるかと思います。
実は、「健康食品」は前述した薬機法第68条における「承認前の医薬品・医療機器・再生医療等製品」にあたります。
「健康食品」の定義について
私たちが口から摂取するもののうち、医薬品及び医薬部外品以外のものはすべて「食品」に該当します。
そのうち、食品メーカーなどの企業が「健康」を売りにして販売している食品が、世間的に「健康食品」と呼ばれるものです。
※この健康食品の中には「トクホ(特定保健用食品)」や「機能性表示食品」「栄養機能食品」も含まれます。
これらは国が定めた安全性や有効性に関する基準等を満たした「保健機能食品」と呼ばれるものであり、認められた範囲で効果効能の標榜や、許可された保健機能についての表示が可能です。
「保健機能食品」に該当しない健康食品は、身体への効果効能の標榜はできません。
「健康食品」の効果・効能は広告してはならない?
ここで薬機法第68条に戻ると「承認前の医薬品・医療機器・再生医療等製品の広告の禁止」とありますね。
第68条の詳細は以下のとおりです。
(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)
第六十八条 何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三条の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。
引用:第十章 医薬品等の広告(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)第六十八条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335AC0000000145#Mp-At_68
つまり、健康食品においてはたとえ「保健機能食品」であっても「その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告」をしてはならないのです。
薬機法にとっては【健康食品=承認前(未承認)の医薬品】のように判断されるので、医薬品と誤認されるような広告表現はあってはならない、ということですね。
「健康食品」の広告作成について
①「医薬品と誤認されるような広告表現」をしない
それでは、健康食品に関してはどのような広告を作れば薬機法に抵触せず配信できるのでしょうか?
まず第一に、繰り返しになりますが「医薬品と誤認されるような広告表現」を絶対にしないことです。
Yahoo!広告では「食品、健康食品」に関する広告掲載基準を次のように定めています。
(1) 機能性表示食品の場合は、届出を確認でき、表示内容がその範囲内であること。
(2) 特定保健用食品の場合は、許可を確認でき、表示内容がその範囲内であること。
(3) 栄養機能食品の場合は、表示内容が規格基準で定められたものであること。
(4) 健康食品の場合は、医薬品的な効能効果(別表3)を暗示、明示しないこと
(5) 健康食品の場合は、医薬品的な用法用量の指定がないこと
(6) 健康食品の場合は、医薬品的な形状のものには、食品と表示すること
引用:3. 食品、健康食品 – ヘルプ – Yahoo!広告
https://ads-help.yahoo-net.jp/s/article/H000044802?language=ja
②具体的な広告事例を学ぶ
次に、広告表現の具体的なOK例・NG例を学んで、自身の広告運用スキルとして身に付けることが重要です。
Yahoo!広告の公式ヘルプでは様々な表現例を紹介していますので、その中から一部抜粋してご紹介します。
健康食品で使用できない表現例
• 脂肪燃焼
• 腸内を活性化
• むくみを解消する
• アンチエイジング、抗老化、若返る
• 遺伝子の働きを高める
• (体の)抗酸化作用
• 血液サラサラ
• 血糖値を安定、血糖値を下げる
• 筋肉を強くする
• 筋肉損傷の回復
• 筋力の増強
• 冷えを感じなくなった
• 体が温まる
• 血行がよくなる
• 性欲増強
• 男性の生殖機能増強
• 男性機能の向上
• 疲労回復
• 免疫力アップ
身体の特定の部位に変化が起きるような表現や、症状や機能が改善、向上するような表現は医薬品的な効能効果を”明示”していますので、広告表現で使用することはできません。
健康食品で使用できる表現例
• 健康維持のために
• 美容のために
• 飲みやすい味
• 必要な栄養素を補う
• キレイを総合的にサポート
• 食生活が乱れがちな方に
効果効能を示さない(示すことがほぼ無い)表現を徹底しなければなりません。
結果としてはかなり抽象的な表現にならざるを得ないのですが、法律で定められている以上遵守しなければいけません。
十分に注意すべき表現例
健康食品の広告を作成するうえで悩ましいのが、医薬品的な効能効果を”暗示”する表現の線引きです。
デジタル大辞泉によると、「暗示」とは「 物事を明確には示さず、手がかりを与えてそれとなく知らせること」「 人の感情や考えが、言葉や絵などの間接的な手段によって無意識のうちに強制によらずにある方向に変化する現象」とあります。
先述した「使用できない表現例」はいずれも効果効能を明示していると判断できるような表現でしたが、以下の表現は併記する画像や前後の文脈によっては”暗示”しているとも捉えられかねないので、十分に注意して使用する必要があります。
・毎朝すっきり
・キレイな毎日を
・脂っこい料理が好きな方に
・乾燥が気になったら
・若々しい毎日を
・愛されるボディに
・お酒と楽しく付き合いたい方に
・アルコールの友
・みなぎる自信と活力をサポート
・クリアで爽快な毎日をサポート
例えば、「すっきり」=腸のこと、「乾燥」=肌のこと、「お酒と楽しく」=肝臓のこと、など使用する言葉は抽象的であるものの、一般的に特定のものを連想させるような言葉や表現があります。
文章単体では”暗示”していると判断しにくいものの、画像や前後の文脈次第では限りなくNGに近くなる可能性があります。
抽象的な表現を使えば良いのではなく、「医薬品的な効能効果を暗示、明示」しないことが超重要なのです。
Yahoo!公式では他にも様々な事例を紹介していますので、ぜひ以下から表現方法を学んでください。
♦薬機法抵触事例〈健康食品〉
https://s.yimg.jp/images/promotionalads_edit/learningportal/pdf/rejectcase_healthfood.pdf
※身体の部位や症状ごとのNG例をまとめてあります。
♦<広告表示集> 健康食品
https://s.yimg.jp/images/promotionalads_edit/learningportal/pdf/rejectcase_healthfood2.pdf
※健康食品の目的や成分ごとのNG例、OK例、注意例をまとめてあります。
まとめ
広告運用に携わる方にとって、薬機法の理解と遵守は絶対に避けられません。
特に、広告表現における様々なテクニックを磨き経験を積んできた方の中には、薬機法によって表現が極端に規制されることに歯がゆさを感じる方もおられるかもしれません。
しかしながら、薬機法が目的としているところは「国内の保健衛生が向上し、一般市民に危害が及ぶことを防ぐ」ことです。
実際、過度や誇大な広告表現が原因で事件や裁判になった例は現在でも数多くあり、中には購入者が被害・危害を受けた可能性がある事例もあります。
我々広告運用者にできることは、「規制に抵触しない範囲で訴求力の高い広告表現を磨く」ことではなく、一広告運用者としての社会的責任を持って日々の業務を全うすることだと考えます。
私たちが世に送り出す言葉や表現が人々や社会にどのような影響を与えるのか。
このようなことを常に念頭に置きながら、日々の運用に取り組んでいきたいですね。