先日、たまたまTVを観ていたら気になるニュースがありました。
「満足度No.1」の広告 大半の事業者 根拠内容を把握せずに表示
内容としては、
・消費者庁が今年3月~9月にかけて「No.1」広告などを掲載していた事業者15社に実態調査を行った結果、うち14社が根拠となるアンケート調査の内容を把握していなかった
・事業者からは「調査会社を信頼して任せていた」「他社も行っているやり方で、問題ないと思った」などの回答があった
・「顧客満足度No.1」「おすすめしたいNo.1」「医師の90%が推奨」などが、客観的な裏付けがないまま表記されている場合があった
とのことです。
このニュースでは、「事業者」が自社商品のアンケートを「調査会社」に任せきりで、その内容(No.1の根拠)を把握していなかったという実態が挙げられています。
我々のような広告代理店の立場では、事業者以上にその「No.1」の根拠について追及することは難しいでしょう。
しかし「クライアントがNo.1だと言っているから」といって安易にLPや広告文に表記してはいけません。
そもそも、なぜ「No.1表記」はこれほどまでに問題になっているのでしょうか?
「No.1表記」の問題点
「No.1表記」とは、ホームページやパンフレット、広告などで「顧客満足度No.1」など何かしらの分野で1位であることを訴求する表記です。
自社サービスの強みや特徴が、競合他社と比較して圧倒的優位であることを分かりやすく訴求できることから、多くの事業者に使用されている表現の一つです。
しかしながら、一般的な社会的常識を備えた方であれば「むやみやたらにNo.1を謳ってはいけない」ということは理解されていると思います。
最近では「○○No.1!」の下に小さい文字で「※△△年□□社調べ」など併記されている場合がほとんどですね。
では、そのような併記があればNo.1を謳っても構わないのでしょうか?
調査していれば「No.1」を表記できる?
そもそも、一見まっとうな調査結果に見える「□□社調べ」の実態について軽く触れておきます。
このようなNo.1表記を謳うために現在一般的に行われていることは「リサーチ会社に調査を依頼する」ことです。
市場調査やアンケート集計サービスを行っているリサーチ会社に委託して、そこで出た結果をもとにNo.1表記を行う、というものですね。
「第三者に委託するから正しいデータなのでは?」と思う方もいると思いますが、この依頼の出発点は「自社サービスの強みでNo.1表記ができるものはないか?」という場合があります。
実際「No.1表記 調査」などで検索すると、数多くのリサーチ会社がサイトで「No.1表記ができるよう調査を行います!」と訴求しています。
もちろんこれ自体は法律上問題なわけではないですし、ほとんどの会社は公正で客観的な調査を行っていることと思います。
しかしながら、一部の会社が「意図的に結果を操作している」と捉えられかねない調査を行っているという実態があり、昨今それが大きな問題となっております。
具体的には「アンケートで1位にしたい企業を選択肢の一番上に置く」「商品やサービスを知らない人も顧客調査の対象にする」などです。
※詳細は下記ニュース記事を参考ください。
根拠乏しい「No.1」広告、消費者庁が調査へ 違反相次ぎ – 日本経済新聞
そのため、調べた時期や調査会社が明記されているからといって、それが公正で客観的な調査に基づいて行われた、とは判断できないわけです。
「No.1表記」とどのように向き合うか
それでは、事業者として、広告代理店として、一般消費者として、私たちは「No.1表記」とどのように向き合うべきでしょうか。
消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」
まず前提として、消費者庁が掲げている「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」を遵守する、ということです。
不当景品類及び不当表示防止法
これに加えて、平成28年4月1日に消費者庁から発表されている「比較広告に関する景品表示法上の考え方」2.(2)適正な比較広告の要件 では、以下のように明記しています。
比較広告が不当表示とならないようにするためには、一般消費者にこのような誤認を与えないようにする必要がある。
このためには、次の三つの要件をすべて満たす必要がある。
① 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
② 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
③ 比較の方法が公正であること
公正取引委員会「No.1 表示に関する実態調査」
独占禁止法を運用するために設置された機関である「公正取引委員会」では、2008年に実施した調査にて「商品等の内容の優良性や取引条件の有利性を表す No.1 表示が合理的な根拠に基づか
ず、事実と異なる場合には、景品表示法上問題となる」としております。
そして、No.1表示を行う際は下記4点を遵守しなければいけないことを、具体的な表示例とともに明示しています。
(1) 商品等の範囲に関する表示
○ No.1表示の根拠となる調査結果に即して,一般消費者が理解することができるようにNo.1表示の対象となる商品等の範囲を明りょうに表示すること。
(明りょうでない表示例) 「お客様満足度○○部門No.1」(注:○○は化粧品の種類,表示物は化粧品の通信販売に用いられているもの)(実際には,化粧品全体の○○部門における調査結果ではなく,通信販売される化粧品の○○部門における調査結果であった。)
「○○健康食品シェアNo.1」(注:○○は特定の栄養成分等)(一般消費者にとって,○○健康商品の範囲を理解することは困難なものであった。)(2) 地理的範囲に関する表示
○ No.1表示の根拠となる調査結果に即して,調査対象となった地域を,都道府県,市町村等の行政区画に基づいて明りょうに表示すること。
(明りょうでない表示例) 「施術件数実績地域No.1」 「地域No.1の合格実績」(3) 調査期間・時点に関する表示
○ No.1表示は,直近の調査結果に基づいて表示するとともに,No.1表示の根拠となる調査の対象となった期間・時点を明りょうに表示すること。
(明りょうでない表示例) 「○○販売数日本1位『△△雑誌』□年□月号より」(注:○○は商品の種類) 「オール電化住宅施工棟数5年連続○○県下No.1」(4) No.1表示の根拠となる調査の出典に関する表示
○ No.1表示の根拠となる調査の出典を具体的かつ明りょうに表示すること。
例えば,ある調査会社が行った調査結果に基づくNo.1表示の場合には,調査会社名及び調査の名称を表示すること。
調査の出典とともにその調査方法や調査結果について,表示物にホームページアドレスを記載するなどして,一般消費者が確認できるようにすることも一つの方法
第三者が調査した既存のランク付け等を根拠にNo.1表示を行う場合には,当該調査が客観的に実証された根拠に基づくものかどうかを確認すること。
日本マーケティング・リサーチ協会「ランキング広告表示に使用する調査データ開示ガイドライン」
消費者庁や公正取引委員会の定める法規制等を踏まえて、一般社団法人の日本マーケティング・リサーチ協会がガイドラインを策定しました。
ここでは
「社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法によって実施された公正な調査とは具体的にどのようなものであるかは、
商品やサービスの特性等も考慮した個別具体的な判断となるため、一義的に定めることは困難」
と現状の課題を踏まえたうえで
ランキング広告に触れた一般消費者に対し、その表示の根拠となる調査の概要をできるかぎり詳細に開示し、
一般消費者自身に当該調査が公正な調査であるか判断する機会を与えることこそが、
一般消費者を不当な No.1 表示から保護し、市場調査に対する社会的信頼を維持することにつながる
としています。
つまり、事業者はもちろんのこと、消費者もどのような調査が行われたかが詳細に把握でき、消費者自身が公正に判断できることが重要だということですね。
「どのような表現をすべきか」ではなく「どのような情報を明示する必要があるか」
我々広告代理店の立場からすると、「じゃあどのような表現ならいいのか?」という点を追求したくなります。
しかしもっとも重要なことは「いかに消費者が正確かつ公正なデータをもとに消費活動ができるか」ということです。
商品を売りたい、売上を伸ばしたい立場である事業者がこの視点を持つことは非常に難しいかもしれません。
しかしながら、消費者の視点に立つことは消費者心理を理解することにもつながりますし、そのことがユーザーニーズの把握や新たな商品開発につながる可能性も十分にあります。
広告表記のグレーゾーンでいたちごっこに励んでいるだけでは、「本当に売れるサービス」を作ることはできないかもしれません。
我々としては「No.1」にとって代わる訴求表現を磨いていくことも一つですが、小手先の技術だけではなく「マーケッター」という立場から誠実さをもって市場で戦う実力を身に付けていきたいものです。
各媒体の広告表示に関するガイドライン
最後に、Google等各広告媒体が発表している広告表示に関するガイドラインのリンクをまとめましたのでご参考ください。
不実表示 – Google 広告ポリシー ヘルプ
7. 最上級表示、No.1 表示【第3章3.関連】 – ヘルプ – Yahoo!広告
Meta広告規定について | Metaビジネスヘルプセンター
LINE広告審査ガイドライン|LINEヤフー for Business